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本蔵-知る司書ぞ知る(46号)

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年8月20日更新

本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2018年8月20日版

今月のトピック 【かわいい理科の本】

「痛快」「稀代の」物理学者と称されるR・P・ファインマンは今年生誕100年・没後30年。図書館では、物理を含む分類番号400番台の棚には独特のゆったりとした時間が流れています。背表紙を眺めながら歩くと、「科学を(数学を!物理を!化学を!)好きになってもらいたい!」という気持ちが熱く伝わってくる装丁デザインやタイトル、構成の工夫に胸打たれます。今回はイメージを覆す、かわいい理科の本をご紹介します。

エレンの宇宙』 (羽馬有紗/著 技術評論社 2009.4)

ちいさな電子・エレンは回想します。自分は3ヶ月前はリンゴだった、ある時は恐竜、ある時は宇宙の塵、ある時は…。イラストレーターであり、サイエンスライターである著者がやさしい語り口で紡ぐ言葉に、いつの間にか読者はエレンと同化して時空を旅し、やがて冒険が終わるころには電子も原子核もダークマターも隣人のような存在に。

科学の世界のスケール感をつかむ:もしも地球がメロンの大きさだったら』 (小谷太郎/著 ベレ出版 2013.9)

「地球がメロンの大きさだったら月は4メートル離れたウメの実」 大胆な切り口により、漠然としたイメージがぐっと具体化します。大きさ・速さ・重さ・距離・時間を自在に読み替える作者に導かれ、“想像できない”が“想像できる”に変わる時、「そうだったのか」という爽快感が生じます。

元素生活』 (寄藤文平/著 化学同人 2009.7)

元素―立ちはだかる鉄壁の周期表。それらに背景や服、髪形などを加え、ひと目でその個性までわかるように規則的かつユーモラスに書き分けています。各々の元素のキャッチフレーズと力まない説明、日常で使われる用途や沸点・融点・密度に漢字表記と盛りだくさんでありながら、重々しくはありません。細部まで丁寧に作りこまれたデザインの力を感じます。

今月の蔵出し

 

55歳からのハローライフ』(村上龍/著 幻冬舎 2012.12)

 村上龍といえば、『限りなく透明に近いブルー』に代表される「時代を生きる若者」をモチーフにした作品を思い出されるかもしれませんが、本著に出てくる主人公達は、いずれも60歳前後です。離婚、リストラ、退職などを機に、悩みを抱え、「希望のようなもの」を掴むまでの感情の変化が、5つの中編小説として綴られています。

 特に印象に残っているのは「トラベルヘルパー」というお話しです。
 主人公は現役を引退した62歳のトラックドライバーで、家族はおらず、ひとり古書店に通い、小説を読んで日々を過ごしています。あるとき、古書店に品のよい50代の女性が現れ、2人は食事をする仲になりますが、女性はもう会うのをやめたいと申し出ます。「老いらくの恋」は徐々に「幼い頃の思い出」へ収束していきます。やがて幼い頃の自分に立ち返り、これまでの人生に意味づけを行うのです。

 著者は近年、政治・経済にも造詣が深く、本著も丁寧な時代描写で読み手を楽しませてくれます。読んだ後に、「55歳」というキーワードが頭から離れず、自分の過去や将来にまで考えが及んでしまったのは私だけでしょうか。

 この原稿を書いていて、発達心理学者のエリクソンを思い出しました。エリクソンは著書『アイデンティティ』において、自我発達の過程(ライフサイクル)を8つに区分し、65歳から「自我の統合と絶望」が課題であると書いています。先ほど私が「希望のようなもの」と表現したものは、まさに「自我の統合」のことなのではないか、と思い当りました。興味のある方は、エリクソンの関連本『アイデンティティとライフサイクル論(鑪幹八郎著作集)』の第三章第七節「老年期のアイデンティティ」も併せて、読んでみるのはいかがでしょうか。

【鍬形】

サッカーが消える日 2030年、蹴音のない世界。』(カルロ・カルザン/著 東邦出版 2011.11)

 先月、フランスの優勝をもって閉幕したワールドカップのロシア大会。前評判の決して良くなかった日本代表は、前回のブラジル大会の成績を上回り、決勝トーナメントに進出しました。ベスト8をかけて戦ったベルギーとの試合は特に盛り上がりましたね。

 そこで、今回は、サッカーを題材にした作品を紹介します。衝撃的なタイトルですが、ご安心ください。サッカーが禁止されてから20年経った世界を描く“架空の”物語です。

 時は2030年。主人公のアレックスはスポーツ専門のジャーナリストで、サッカーが消えてから20年、その節目の時期にサッカーを題材にした大型連載企画を任されることになります。彼は、資料集めやサッカー関係者への取材を通して、自分自身をも虜にしたサッカーの魅力を再確認していきますが、それと同時にサッカーに関わって起こった悲劇についても学んでいきます。

 物語は、アレックスが執筆した連載記事を差し挟みながら進んでいきます。連載を始めてからまもなく、アレックスは15歳の少年ジジと知りあうことになります。サッカーを実際に体験したことのない世代であるジジは、闇サッカー大会を開催することをアレックスに打ち明けます。一方、スタジアムで起こった暴力事件で息子を亡くした女性からは、サッカーの復活を望む風潮に反対する手紙が届きます。さて、かつての美しきサッカーは復活するのでしょうか。

 本書に描かれる、世界からサッカーが消えることになった原因は、行き過ぎた商業主義や人種差別、暴力などで、それらは現実にも実際に問題になっていることです。本書をご覧いただくことで、サッカーを見つめ直すきっかけになるかもしれません。 

【Dora】